大阪地方裁判所 昭和53年(行ウ)8号 判決 1979年9月28日
大阪市東成区大今里本町二丁目一六三番地
(送達場所 大阪市生野区田島町六丁目一四番一号株式会社千隆本社内)
原告
木林菊夫
右訴訟代理人弁護士
太田全彦
大阪市東成区東小橋二丁目一番七号
被告
東成税務署長
砂本寿夫
右指定代理人
細川俊彦
同
小林修爾
同
金原義憲
同
瀬川太平
同
前田全朗
主文
本件訴えを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が木林栄こと原告に対し昭和四四年三月四日付でした所得税の青色申告承認取消処分を取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 本案前の申立
主文と同旨
2 本案について
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1(一) 原告の妻木林栄(以下「栄」という。)は、酒類販売免許を受け、大阪市東成区今里において酒類販売店を営んでいたが、酒類販売店において飲食営業をしてはならないとの行政指導があったので、原告が右酒類販売店において原告名義で飲食営業をし、かつ飲食営業分の所得を原告の所得として確定申告をしたところ、被告の部下署員より飲食営業分の所得も栄の所得であるから、酒類販売店分の所得と併せて栄の所得として申告するように指示された。
(二) 原告は被告に対し、原告の昭和四〇年ないし昭和四二年分の所得税について栄名義の青色申告書により確定申告をしたが、(一)の経緯により、被告は、原告が栄名義の青色申告書により確定申告することを承認したというべきである。
2 被告は原告に対し、昭和四四年三月四日付「所得税の青色申告承認取消通知書」(以下本件通知書という。)をもって、昭和四〇年一月一日までさかのぼって所得税の青色申告承認を取消した(以下本件処分という。)
3 本件通知書には青色申告承認取消の基因となった具体的事実の記載がないから、本件処分は違法である。
4(一)(1) 原告は、昭和四四年、所得税法違反の嫌疑で大阪地方裁判所に起訴されたが、昭和五一年三月一日宣告の右被告事件の第一審判決において、酒類販売店分の所得も飲食営業分の所得も原告に帰属すると判断された。
(2) 右(1)の時点で、本件処分が原告に対するものであることが明らかとなった。
(二) さらに、原告が昭和五二年五月二五日、大阪国税不服審判所副審判官横山礼昭と折衝中、同人から国税不服審判所において事件処理が可能になるように本件処分が栄こと原告に対してなされたものとして不服申立をするよう指導され、この時点で、本件処分が原告に対してなされたものであることを確定的に知った。
(三) 原告は、法定期間内である昭和五二年六月二四日に本件処分について異議申立をしたから、期間徒過について国税通則法七七条四項但書の正当事由がある。
5 よって、原告は被告に対し本件処分の取消を求める。
二 被告の本案前の主張
1 被告は本件通知書をもって栄に対し所得税の青色申告承認取消処分をしたものであって、原告に対しかかる処分をしたことはないから、訴えの対象たる処分は存在せず、本件訴えは却下されるべきである。
2 仮に、本件処分が原告に対するものであるとしても、栄は昭和四四年三月五日、本件通知書を受領し、同女と同居していた原告もそのころ本件処分の内容を知った。ところが、原告は昭和四五年法律第八号による改正前の国税通則法七六条一項の定める一か月内に異議申立をせず、しかも同法七六条三項のやむを得ない理由も有していないから、国税不服審判所長が原告の審査請求を却下したことは適法であり、原告の本件訴えは不服申立前置の要件を満たしておらず、不適法として却下されるべきである。
三 請求原因に対する答弁
1 請求原因1(一)のうち、原告の妻栄が酒類販売免許を受け、大阪市東成区今里において酒類販売店を営んでいたことは認め、被告の部下署員が飲食営業分の所得も栄の所得であるから、酒類販売店分の所得と併せて栄の所得として申告するるよう指示したことは否認する。その余の事実は知らない。同1(二)は否認する。被告は栄に対し昭和四〇年分以降についての青色申告の承認をし、これにより同人が昭和四〇年分以降昭和四二年分までの所得税について青色申告書により確定申告をしたものである。
2 同2は否認する。被告は栄に対し所得税の青色申告承認取消処分をしたものであって、原告に対しかような処分をしたことはない。
3 同3のうち、本件通知書に取消の基因となった具体的事実の記載がないことは認め、違法との主張は争う。
4 同4(一)のうち、(1)は認め、(2)は争う。同4(三)は争う。
第三証拠
一 原告
甲第一号証、第二号証の一ないし九、第三号証の一、二、第四ないし第七号証、第八号証の一ないし三
二 被告
甲第二号証の三、四、第五ないし第七号証の成立は知らないが、その余の甲号各証の成立は認める。
理由
一 被告は、本件処分は栄に対してなされたものであり、原告に対してなされたものではないから、本件処分が原告に対してなされたことを前提としてその取消を求める原告の訴えは不適法であり、却下を免れない、と主張する。
よって判断するに、成立に争いがない甲第一号証(所得税の青色申告承認取消通知書)によれば、本件処分においてはその相手方を書面上明らかに「木林栄」と表示してなされていることが認められ、また右甲号証および弁論の全趣旨によって認められる、本件処分によって取消される当の青色申告承認処分は栄を名宛人としてなされていた処分であったとの事実および本訴において被告が「栄に対して本件処分をしたものであって、原告に対してかかる処分をしたことはない。」と主張している事実からみて、被告は本件処分の当時も栄を相手方として、これをなす意思であったものと推認される。しかるところ、このように処分庁たる被告が本件処分を、その表示においても意思においても共にその相手方を栄(原告の妻で実在人)として、これをなした以上、本件処分が原告に対してなされたとみる余地のないことは明らかである。
そうすると、本件処分が原告に対してなされたことを前提とする原告の訴えはその余の事実について判断するまでもなく、その前提を欠き不適法として却下を免れない。
二 よって、原告の訴えを却下することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 荻田健治郎 裁判官 井深泰夫 裁判官 市川正己)